歯科医院における咬筋ボツリヌス治療
2023.08.31
歯科医院で咬筋ボツリヌス治療を行う意義
ボツリヌス菌から抽出されるたんぱく質を、過度に緊張している筋肉(咬筋)に少量注射することで、一時的に筋肉の緊張を和らげる治療を「咬筋ボツリヌス治療」といいます。歯ぎしりや食いしばり、顎関節症などの治療に使用され、噛む力をコントロールすることで歯や顎への負担を軽減します。歯科医院では、美容目的で行う治療とは異なり、噛み合わせ治療の一環として咬筋ボツリヌス治療を行っています。むし歯や歯周病の治療と平行して行うことで、お口の健康を回復させ、また維持することができるのです。
咬合力が強すぎると起こること
咬筋は咀嚼筋の一つで、食べ物を粉砕して細分化する際に最も大きな力を発揮する筋肉です。咬合力が強すぎると日常的に歯や顎に強い力がかかり、歯や顎に様々な影響を及ぼします。
・歯が擦り減る(咬耗)、歯のつけ根が欠けてくる(くさび状欠損)ことにより知覚過敏を生じる
・詰め物や被せ物が割れたり、歯にひびや縦線が入る
・顎に痛みや雑音が生じる(顎関節症)
・歯肉退縮など、歯周病が進行する
・下顎骨隆起や上顎骨隆起(歯ぐきの硬いこぶ)が起こる
・朝起きると顎が疲れていたり、痛みが出る
咬筋ボツリヌス治療の効果が期待できる疾患
無意識のうちに歯ぎしりや食いしばりをしていると、常に咬筋を伸縮させていることになり、顎にも大きな負担がかかります(顎関節症)。それが長く続くと必要以上に咬筋が発達し、膨張している状態(咬筋肥大)になります。歯や顎に悪い影響を及ぼすだけでなく、頭痛や肩こりの原因となることもあります。
治療に際しての注意事項
・痛みや副作用について
咬筋ボツリヌス治療では、咬筋の周囲に注射をします。そのため、針が刺さる痛みはありますが、ご希望の方には表面麻酔を使用して痛みを軽減することもできます。また、針の跡が点状に残ったり、皮下出血が起こることもありますが、一時的なものであり、お化粧で隠せる程度です。治療後数日は注射した部位に重たい感覚が残ることがありますが、特に問題はありません。
・効果がでるまでと、効果の持続期間
治療の効果は処置数日後から数週間程度であらわれることがほとんどですが、実際に変化をご実感いただけるまでには1カ月ほどかかる場合もあります。効果の持続期間は、おおよそ3ヶ月から半年です。個人差がありますが、効果は徐々に薄れていきます。効果を持続させたい場合は、一定期間おきに治療を受けていただくことをおすすめしています。
・治療を避けたほうがよい方
全身疾患をお持ちの方や、薬剤過敏症の方には適応できません。妊娠中の方や授乳中の方、妊娠のご予定がある方とその配偶者も治療は受けられません。
まとめ
歯ぎしりや食いしばりは歯や顎に大きな負担を与え、全身にも様々な悪影響を及ぼします。近年では、それらの影響からくる肩こりや頭痛にお悩みの方が多くいらっしゃいます。咬筋ボツリヌス治療を行うことで、咬筋の緊張をやわらげ、歯ぎしりや食いしばり、顎関節症などを改善することができます。当院では筋電計での咬合力検査(筋電図)も行っておりますので、症状にお悩みの方はぜひお気軽にご相談ください。